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「まず、どの辺に向かうんだ?まさか闇雲に動くわけじゃない・・・よな?」
現在地はG―8。哲志たちが行ってしまうのを見送ってから、徹たちは動き出した。それぞれの持つ武器のセーフティを外し、いつでも攻撃態勢がとれる状態にして。その時に賢吾と真奈美の装備が予想以上にごつい事に気がついた。賢吾がSPAS12(ショットガン)を左手に、M16TYPE Attachment Set(グレネードランチャー)を右手に抱えていた。『・・・それで動けるんスか?』という徹の問いに、『・・・問題ない』と短く賢吾は答えた。その後は「ハハハ・・・」と苦笑するしかなかったが、後ろを振り返ると真奈美が右手に賢吾の持つショットガンよりも20センチほど長いTYPE M3 SUPER90(ショットガン)を握っていた。左手にこそ何も持っていないが、その左側の腰にはハンドガンが3丁ほどかざられている。『・・・心配しなくても大丈夫よ。私だってちょっとは力あるもの。』彼女は徹と目が合ってそう言った。『ハハ・・・そ、そうみたいですね』と返すのが精一杯で、やっぱり苦笑い。その近くで秀也がカチャカチャ音をたてながらナイフを丁寧に腰からぶら下げ・・・この人たちはテロリストなのだろうか?と、何度も思ったものだ。彼らを見て、自分のは大丈夫だろうか?と思ってワルサーMPLやH&K−USPの点検をしたり、絵理のコルト・ダブルイーグルを見てやったり・・・そうこうしているうちに出発になって、今に至る。彼らはむきだしになった各々の武器とは別に、また荷物を抱えていた。おそらくは弾薬なのだろうが、相当な重さになっているはずである。それを片手が一応フリーな真奈美が抱えていた。
「今はとにかく北上するだけ。賢吾がこっちでいいって言ってるんでな」
今の隊列は、先頭が賢吾、その次に秀也、そして徹と絵理がほとんど並んだような状態で歩き、一番後ろを真奈美が歩いている。
「何で?どうして賢吾さんには行く方向が分かってんの?」
首をかしげながら徹が尋ねる。ほんの数秒、沈黙があったが賢吾は答えなかった。変わりに秀也がチラリと後ろを見た。
「さぁな。ま、賢吾が間違ったこと言ったことはないからな。そういう所は気にするな」
秀也が説得するような口調で言った。徹はその返事に小さく頷いて、ずれて落ちかけていたワルサーを持ち上げ、肩にかけなおす。そのヒモに向けていた視線を正面に戻し、気を取り直して歩く。ザ、ザ、ザという地面を踏みしめる5人の足音だけが耳に入ってきた。
「・・・俺は、一度アイツを殺した」
先頭を行く賢吾が突然ポツリとつぶやく。とても小さく、野太い声だったが、確かにそう聞こえた。確かにそう聞こえたから、余計に徹はとまどった。・・・一体、何のことだ?一度・・・殺した?
「今から4年前。ヘルトライアルと当たった時・・・アイツは偶然その場に居合せた俺の妹を殺した。敵に攻撃しかけてかわされたとかならわかる。俺は叫んだ。『ここは危ない、逃げろ。』ってな。それに俺の妹は忠実に従った。あいつは敵とは真逆の方向に銃を撃った。そう、俺の妹に・・・だ。俺は怒った。持っていたショットガン、撃ちまくった。唯一の肉親殺されて、我を忘れてな」
徹の横で、誰にも聞こえないような小さな声で『健吾さん』と絵理がつぶやいた。チラリと見ると、彼女の目には涙が浮かんでいた。賢吾の「だが―――」という言葉を聞いて、徹は前に向き直った。
「アイツは生きていた。俺の妹は死んだがな。―――これからの戦いは、俺の戦い。俺が・・・けりをつける。お前らは待機していてくれ」
今にも泣き出しそうな絵理の肩を、徹がポンポンと叩いた。絵理は徹を驚いたような様子で見、そのまま身を任せて徹の肩に頭をピタ、とくっつけた。公園で見かけたら、間違いなく一つのカップルのように思える光景だが―――彼女の頬には一筋の涙。『絵理・・・こういう話弱いのか』と思いながら、徹は絵理の頭をそっとなでてやった。
「・・・わかった。無理はするなよ。それと、形勢が悪くなったら手出すからな」
賢吾の広い背中を、拳で軽く押しながら秀也が言った。メンバーのリーダーとして、メンバーの死は最悪な事であるのだろう。賢吾もそれは了解しているに違いない。何も言い返さない彼を見れば一目瞭然である。
「・・・すまない」
賢吾はわずかに下を向いたまま言った。別に、これといった理由はないのだが、
『やっぱ、仲間っていいよなァ〜』
そう思いながら徹は笑った。その横で涙をぬぐっている絵理も徹と同じ事を感じ、考えていたのか、笑みが戻っていた。目はまだ少し赤かったが、もう大丈夫なようで、徹の方を見て、ニッと笑ってみせた。
プァァアアアアア
突然遠くから聞こえてきたバイクの音。その音にほぼ全員が同時に気づいた。現在地はF―8にさしかかるはず。比較的見渡しが良い場所なのだが、それらしい姿はどこにも見当たらない。
「もう少し行った所に森がある!そこに身を隠すぞ!」
秀也が後ろを振り返って叫ぶ。走るぞ、という意味もあるのだろうか、賢吾がチラリと後ろを見てから一気に走り出す。その後を追うように全員が走り出した。思っていたよりも近いところに森があった。あと、十数メートルで森に入ろうというとき、徹の頭の中を何かがかすめた。
『―――ショーの・・・始まりだ』
誰の声だかわからなかった。しかしその声は徹の頭の中に響き渡り、一瞬、徹の動きが止まる。森のずっと右の方に、白いものが見えた気がした。
「ヤバイ!敵は・・・森にいる!!」
徹がとっさに叫んだ。賢吾がぴたりと止まり、その背中に秀也が激突する。小さくうめいて秀也がしりもちをつきそうになるが、そこはギリギリで体制を立て直す方が早かった。
「イテテ・・・で?どこだ!?っつうか、ソイツは見えたのか?」
秀也が両手に二本ずつ手投げナイフを構え、鋭い眼光で木々の生い茂る、薄暗い森の中を睨みつける。
「いや、直接見た!ってわけじゃないけど・・・白い服・・・かな、それだけ見えた。ここよりずっと右の方で――」
自分が見た白いもの・・・アレは紛れもなく服だった。全部が全部見えたわけじゃないが、どこか確信して徹が白い服の主がいたであろう方向を指差す。
「・・・出てこい伸二!俺ならここにいる!」
森に向かって賢吾が叫ぶ。こめかみや太い腕には血管が浮き出ていた。
バララララ
もう、身近な音になってきたマシンガンの音。その音が森の中を木霊し、あたり一体に鳴り響いた。鳥が逃げるように羽ばたいた羽音がしたかと思うと突如、賢吾が小さくうめいて後方へと押された。
「・・・ククク・・・よく分かったな。飛び込んできた横からぶっ放そうと思ったんだがなぁ。・・・だが・・・叫ぶのはよくない。自分の居場所を教えているようなもんだぜ?
―――賢吾」
木々の生い茂る森の中からその男は現われた。口の端を釣り上げ、右手にウージーSMGをぶら下げた男。白いコートのような服には赤い文字の刺繍が至るところに施してあった。色素の薄い長髪は額よりも少し上のところでバンダナによって上と下にわけられ、右目だけは長くのびた髪が覆い隠していた。
「・・・下がってろ」
賢吾がわずかに移動し、伸二の正面から側面の方へと移動する。賢吾のすぐ右手の方に森がある、というところに移動したところで賢吾は足を止めた。
「・・・死ぬなよ、賢吾」
秀也は賢吾にそう言って、近くの森に身を隠した。それに3人も続く。ぱっと見て一番太そうな木の裏に4人は隠れ、小さく輪を作って座った。
「ほ、本当にいいのかよ!?賢吾だけ残してさ!」
秀也の胸倉をつかんで徹が叫ぶように言った。賢吾の願望であるのはわかっているが・・・徹の理性はそれを認めなかった。友人を一人取り残してきたような罪悪感が徹を襲った。このままアイツに殺されてしまったら・・・?そう思うと変に焦ってしまう。色んな気持ちが混ざり合って、結局一番表情に表れていたのは『怒り』だった。友人を取り残してきてしまった自分への―――怒り。
「・・・わかる。わかるけど、邪魔・・・したくねぇんだよ。一人で最初から最後まで戦い抜いてこそ敵討ち。それが賢吾の信念だし・・・」
徹は唇を噛みしめながら、秀也から手を離した。肩にかけていたワルサーを右手に持ち直し、賢吾がいるであろう方向に視線を移す。
「・・・徹君・・・?まさか、行く気じゃ・・・」
徹は一度目をつぶると、ゆっくりと立ち上がり、うっすらとまぶたを開いて秀也たちを見回した。一度、小さく深呼吸をして、言った。
「やっぱ、納得いかないよ。撃つ事はできないかもしんないけどさ、隠れて逃げるような真似なんて絶対に嫌だ。わがままかもしれないけど、俺は賢吾さん・・・いや、賢吾を見殺しにはできねぇよ」
徹の中を言葉がよぎった。『絶対に―――逃げちゃダメだ』・・・。このプログラムに参加する直前に、徹の夢の中で誰かが言ったこと。きっと、今このままだったら絶対に自分は後悔する。そう、思った。
「だから、俺行くよ。俺らが死んだら後ヨロシク!」
あいてる左手で小さく敬礼してみせる。それを秀也、絵理、真奈美はポカンとして見上げていた。「じゃ・・・」と小さく言うと徹は三人に背を向ける。その後ろで誰かがタメ息をつくのを感じた。
「・・・ったく、わぁ〜〜〜かったよ」
秀也が面倒くさそうに立ち上がり、頭をぽりぽりとかきながら徹を見た。それに続いて絵理と真奈美も立ち上がる。
「一人で行くなっつうの。俺らのいる意味――――」
秀也が言葉を続けようとした時、鼓膜を切り裂くような轟音がとどろいた。4人は無言のまま(声を発してもとても聞こえなかったかもしれないが)、顔を見合わせて走った。賢吾のもとへ。音が大きすぎてどこから聞こえたのかさえよく分からなかったが、こんな音がするのは・・・あそこ、つまり―――賢吾と伸二の戦っている場所以外に考えられなかったのだ。
「賢吾ォォォォォ!」
徹は声の出る限り叫んだ。

「会いたかったぜ?賢吾・・・」
「俺もだ。伸二」
ニィ、と笑う伸二を睨みつけながら賢吾が吐き捨てるように言った。ゆっくりと引き金に指をかける。伸二に悟られないように注意しながら。
「・・・あの時、なぜ・・・撃った?」
賢吾が低く、小さな声で問う。賢吾の目に映っている過去、それは―――妹が撃たれる瞬間。次第に鮮血が飛び散り、血に染まっていく様子が鮮明に頭の中で再現されていた。
「あの時?・・・あぁ、ヘル何とかと戦おうとした時か」
伸二は一度顔をしかめ、数秒考えるようにしていたがすぐに元の不気味な笑みを浮かべた表情に戻った。
「邪魔だと思ったからさ。敵に集中してもらわねば困るんでな」
「貴様ァ―――」
グレネードとショットガンを両手に突き出すように構え、引き金を引こうと指をかけた。いざ、引き金を引こうとしてその動きが凍りつく。伸二もまた、ウージーを構えていたのだ。照準は確実に賢吾の頭に合わされていた。
「ククク・・・少しは進歩したみてぇだな。引き金引いたら撃たれるってこと、分かってんじゃねぇか。あの時のお前ならなりふり構わず撃ってただろうぜ?」
ニヤ、と笑いながら伸二が言った。今度はさっきとはわけが違う。さっき撃たれた時は上半身にまとった防弾チョッキがあったから助かったものの、頭を打ち抜かれては何も出来ない。例え伸二を殺せたとしても、自分まで死んでしまっては1から10まで完ぺきに『仇を討った』とは言い難いのだ。刺し違えてでも―――とも思ったことはあるが、やはり倒して、生きのびてこそ『勝った』と呼べるもの。賢吾はそう、信じていた。だから・・・今は様子を伺うしかない。
「・・・銃を置きな。俺も置くからよぉ。肉弾戦と行こうじゃないか」
「・・・いいだろう」
グレネードとショットガンをその場に放り、重たいチョッキも脱ぎ捨てる。それを見て、伸二もウージーを置いた。真上に近い場所から照りつける太陽の光が、賢吾の筋肉を美しく表明し、幾つものからだのキズは、その歴戦を物語っている。
「・・・行くぞ」
歯を剥き出しながら賢吾が言い、拳を構えて走り出す。伸二は両手を前にたらし、だらしのない姿勢で構えていた。彼の左足に変な糸の様なものが絡み付いているのに気がついたのは、2メートルぐらいのところまで距離を詰めた時だった。糸を見たとき、賢吾は『何!?』という表情に変わり、一瞬動きを止めた。それを見とめて伸二はニィ、と不気味に笑うと、左足を思い切り蹴り上げた。糸がビン、と引っ張られたかと思うと、少し遠くで『キン』と、何かのはじけるような音が聞こえ、糸がふわりと地面に落ちる。キャキャキャキャキャキャと何かが滑るような音が聞こえたかと思った直後、賢吾の真横からCBR600XXが飛び出してきた。
「何・・・!!?」
賢吾が腕をクロスさせ、防御しようとする。しかし、大型バイクを素手で受け止めるのには無理があった。無理がありすぎた。CBR600XXは賢吾を吹き飛ばし、大きく転倒しながら大きな岩にぶち当たった。フレームはボコボコにへこみ、ガラスや鏡といたものは割れて飛び散っていた。油のようなものも染み出ている。賢吾もそのCBRのとなりの辺りにまで吹き飛ばされていた。額から血が流れ、左腕は痙攣を起こしていた。左の頭を強く打ったらしく、左目の視力が著しく低下していた。ハァ、ハァ、と息が荒くなってはいたが、伸二をにらみつける事だけは欠かさなかった。
「う・・・ぐ・・・伸二ィ・・・ナ・・・ニヲ・・・」
「クックック・・・馬鹿だな〜賢吾。さっき撃っときゃ俺にケガぐらいさせてただろうに」
そう言いながら伸二は真っ白いコートのポケットからCz75を取り出した。ゆっくりと賢吾の方へと腕を持ち上げる。
「ロードのオッサンが言ってたぜ?『賢吾はもう限界』だってな。―――お前、気づいてたか?反射神経、判断能力が鈍くなっていることによぉ。以前のお前なら今の攻撃もかわせた。いや、予測できていた、だろうがな」
そうだ・・・確かに、そうだ。病院で撃たれた時もタックルしておけば弾は当たらなかっただろう、それに皆のためを思えば、さっきの場面で引き金を引いておくべきだったという事も・・・。優先すべきは自分の感情ではなかった。優先すべきは・・・仲間の安全、生還だったのだ。それこそ、自分の信念を曲げてでも―――。
「消えな―――賢吾」
「く・・・くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお」
口の端をつり上げながら伸二が言うと、絶叫した。いや、しようとした。しかし、叫ぶよりも早く伸二の撃つ弾の方が早かった。CBRのエンジンを打ち抜き、CBRが大爆発をおこした。賢吾の叫びもその轟音にかき消され、轟音のかき消える頃にはもう、CBRや賢吾の姿はもちろん、二人のもたれていた巨大な岩さえも消えていた。
「・・・所詮アイツも・・・雑魚だったってことか」
冷たい視線で岩のあった場所を一瞥すると、足元にあるウージーを拾い上げた。
「賢吾ォォォォォ!」
徹が叫びながら飛び出す。その後ろに3人が続いていた。土ぼこりが舞い、CBRのぶちまけた破片が飛び散り、引火したオイルが激しく火を吹いている中に、その男は立っていた。黒煙と飛び散る炎を背景にして降り立つその姿は、真っ白な悪魔を想像させる。
「テメェ・・・賢吾をどうした!?」
徹が伸二を睨みつけながら叫ぶ。叫んだ直後に、何かが徹の足元に落ちてきた。それは紛れもなく人の腕であった。
「――――――っ!?」
ビニールに近い皮製の黒い手袋をつけた手。それを見て、徹は全てを理解した。口には出さなかったが、間違いない。賢吾は殺されたのだ。自分がここへ来るのが一歩遅かったのである。もっと自分が早く決断していれば賢吾は―――。
「何だよ・・・お前何なんだよ!?」
賢吾の腕にあっていた視点を伸二へと移す。徹は伸二を睨みつけながら続けた。
「昔仲間だったんだろ!?撃たれたかなんか知らないけどさ!自業自得だろ!?人の妹殺しといてさ!そんなの・・・納得いかないっての!あんたがどれぐらい強いのか知らないけどさ―――」
徹は叫びながらワルサーMPLを構えた。引き金に指をかける。その様子を見て伸二は片眉をつりあげ、ニィっと笑った。
「賢吾の仇は俺が・・・俺たちが絶対とる!」
「一人で突っ込むなって言ってんだろうが。・・・初代!賢吾の仇、取らせてもらう」
そう言うといつの間に取り出していたのか、両手に三本ずつもったナイフを投げようと構えた。徹も同時にワルサーMPLの引き金をひく。激しい振動と共にワルサーから多数の銃弾が吐き出される。それを追うようにして秀也のナイフが宙を切り裂いた。
「―――やってみな」
細めていた目を大きく見開き、徹達に聞こえるか聞こえないかわからないほどの声量で伸二がつぶやいた。ウージーを左手に持ちかえながら右へ大きく側転する。その動きは徹たちが引き金をひくタイミングとほぼ同時。素晴らしいほどの反射神経だ。徹の銃弾は伸二の白いコートの下の方にいくつか風穴をあけただけで、本人にダメージはない。速度があり、銃弾に近いスピードを兼ねた秀也のナイフも、さすがに銃弾に追いつけるはずもなく空を切って木に突き刺さったり、数十メートル先の地面に突き刺さったりしていた。側転によって攻撃を回避した伸二は、左腕を突き出し、徹にウージーの照準を合わせた。
「・・・私も忘れないでよ、初代―――」
真奈美が半ば怒鳴るような感じで叫ぶ。と、同時にショットガンが火を噴いた。その音に反射的に体が反応し、伸二は体を大きくそらした。引くのが一瞬遅かった左腕を分散したショットガンの弾がかすめる。その弾は上皮の肉をえぐったらしく、少量ではあったが鮮血が舞った。
「チィ、雑魚共がっ」
徹に合わせていたウージーを瞬時に右手に持ち替え、照準を真奈美に合わせながら秀也達の様子をチラリと伺う。秀也はナイフを4本ずつ取り出し、徹は再びワルサーの引き金をしぼろうとしている。真奈美は・・・ショットガンを構えていた。その状況を呑んで、伸二の頭脳が最も適した行動を割り出す。
「フン・・・」
後ろへステップを取りながらウージーが火を噴く。真奈美はそれを横っ飛びで回避した。ウージーが火を噴くと同時に、徹のワルサーも唸りをあげた。
「まだまだ・・・余裕だぜ?」
ニヤニヤ笑いながら右足で強く地面を蹴る。野球の打者が打ったライナーのようにすぐに左側が木、というところまで低く跳躍すると、起き上がろうとする真奈美に向けてウージーを撃つ。撃つと同時に木に身を隠す。隠れると同時に木にナイフがドドド、という鈍い音を立てて突き刺さった。
「ま、真奈美さん!」
少し遠くに避難していた絵理が真奈美に駆け寄る。伸二の放った銃弾がわき腹からひざの辺りに命中していたのだ。わき腹は防弾チョッキが防いでいたが、左足からはおびただしい量の血が流れている。―――致命傷だ。足をやられては回避行動は取れない。
「ば、馬鹿!来ないで!」
伸二の隠れた方向をチラリと目配せする。木に隠れながらその右手に持ったウージーは確実に真奈美と絵理を狙っていた。
「伏せてぇぇぇぇぇ!」
右足に精一杯の力を注ぎ、絵理にタックルする。その装備によって重量が大きく増えていたこともあろう、比較的小柄な絵理は吹き飛ばされ地面を転がった。真奈美は、自分の後ろの方で「バラララララ」という音を聞いた。間違いなく、伸二の放ったものだと思った。なぜなら、真奈美の首の方から鮮血が吹き出したかと思うと、額にどす黒い穴がいくつもあいていったから。撃たれたのだ、理解できた。痛みはなかった。痛みを知ろうかというころ―――地面に崩れ落ちようかというころには、真奈美にはもう意識はなかった。目の前でどす黒い血を巻き上げながら崩れ落ちる真奈美を絵理は凍り付いたまま眺めていた。「・・・あ・・・・あ・・・あぁ・・・真奈・・・美・・・さん?」
声が震えてしまう。真奈美は自分をかばって死んだ。自分は怪我した真奈美を助けに行こうとしたのに。助けに行くどころか、ただ真奈美の死期を早めてしまっただけのような気がし、その事実が絵理大きく傷つけた。自分が殺したも同然なのだ。もし、自分が真奈美に駆け寄らなかったなら、ぎりぎりでも致命傷は免れたかもしれないのだ。絵理は重火器でガチガチに固めたその重たい体を横向きにし、真奈美の頭を抱きかかえる。まだ、生暖かい。次第に絵理の服を黒に近い真奈美の血が染めていった。
「う・・・うぅ・・・真奈美さん・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
絵理の頬を大粒の涙がいくつも伝う。その光景を見て徹は自分の中に憎悪が湧き上がるのを感じた。秀也の額にも血管がうっすらと浮き上がる。
「―――まず、一人」
誰にも聞こえないような声で伸二がつぶやいた。ウージーの銃口からは細い煙が立ち昇っていた。



日野賢吾(カタストロフィ)
辻真奈美(カタストロフィ)
死亡【残り4人+3人】

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