「良し、行こう」
満面の笑みを浮かべた哲志が言った。
「アホかぁ!」
「何で全部食べちゃうのよ!?」
「もし戦いが長引いたらどうするの!?」
「お、俺も腹減ってたんだぞ!」
「いい加減にしろぉぉぉ」
みんなが口々に文句を言う。その様子に圧倒され、哲志が驚いた表情を浮かべ、皆を制止するかのように両手を前にそろえている。このやり取りを、秀也が頭を軽く振りながら眺めていた。
「ったく・・・お前ってやつは・・・まぁ、いいか。さて・・・作戦を開始する」
病院のロビーで静かに秀也が言った。騒々しかったロビーが再び静寂を取り戻す。
「このまま伸二とぶつかっても、おそらく負傷者が出るが、何とか倒すか・・・全滅だろう。そこで、二手に別れて行動する」
その言葉を聞いて近くにいるもの同士で顔を見合わせ、顔をしかめさせる。おかしい。全員で戦っても勝率は低いのに、なぜ、人数を削減するのだろう?これは徹だけではなく、ほぼ全員が思ったことである。
「・・・確かに、さらに勝率は低くなる。それでも、俺たちは別れて行動せねばならない。その理由は・・・イレギュラー」
秀也の目つきが一瞬鋭くなったかと思うと、話を続けた。
「もしも、伸二以外にまだやる気のある奴がいたらどうする?伸二と戦って負傷した所を狙われたら、それこそ終わりだ。だから、二手に分かれて、障害となる者と戦う部隊と、伸二と戦う部隊に別けなければならないのさ」
ここまで話を聞いて、徹は少し疑問を抱いた。もし・・・もしだが、伸二と戦った部隊が全滅したら?残りの部隊で伸二を倒せるのか?
「・・・もし、伸二と戦う部隊が全滅したら?」
徹が実際に問いかけると、秀也は微笑みながら答えた。
「それは最悪の事態。やつと闘う時は銃声が響きまくるはずだから、もう一方の部隊が援護に来ればいいさ。手遅れになるかもしれないがな。大丈夫。カタストロフィだぜ?そう簡単にはくたばらんさ」
「・・・そっか。そうだよな」
少し、不満があるもののそれしか策がないのならそれで行くしかないだろう。そう思う事で納得した。それに、カタストロフィの強さはよく知っている。一人一人が、すごく強い。他のメンバーはどうなのか知らないが、秀也、雪人を見る限り、他のメンバーも負けないほどに・・・と思って間違いないだろう。・・・信頼できる。
「さて・・・メンバーだが・・・俺、真奈美、賢吾、徹、絵理のチームと、聡奈、雪人、哲志、由美、瑠美のチーム。・・・どうだ?」
火力に差があるような気が・・・と思ったが、口には出さないでおいた。徹は哲志に目配せしたが、哲志は地面を睨みつけていた。もしかしたら、兄かもしれない西山伸二。その兄との再会・・・そして殺し合い。その可能性は決して低くない。そのことを想定しているのだろう。
「よし、では早速行動を開始する。全員・・・死ぬなよ。みんなで脱出するんだ!伸二を倒したら今度は政府。この島にいるな。・・・大丈夫。全員カス同然さ。学校出る前に全員見たけど、戦歴のあるやつはいねぇし、新米だし。ここが一番の山だ。これを乗り切れば・・・」
「脱出できるんだな!?」
秀也の言葉に徹が続く。秀也は満面の笑みを浮かべて返事した。この場にいる者全員の顔が明るくなったような気がした。
「行くぞ!」
「おぅ!!!」
秀也のかけ声に、全員の息が合う。ここを乗り切れば・・・帰れる!この忌まわしい島から。生活的に厳しくなるかもしれないが、死ぬよりはよっぽどましだ。この場で多数決を取ったなら、間違いなく『戦い抜く』が満場一致で即決定だろう。ロビーから退出し、病院の外に出る。大分頭上へと上がってきた太陽の光が降り注ぎ、風もにわかに吹いていて心地よかった。先頭をきっていた秀也が立ち止まり、後を振り返った。
「今から俺の部隊は北へ向かう。雪人たちは西へ。最終的に集合する場所は近くの湖。分校の近くのな。全員・・・いいな!?みんな集まるんだぞ。絶対だからな!」
秀也が目の前で拳を作る。その拳からは強い意志が伝わってきた。絶対に生き抜く、という強い意志が・・・。同じように徹も拳を作り、哲志の前に差し出す。
「哲志、絶対くたばんなよ!」
哲志はちょっと驚いた様子を見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、同じように拳を握って徹の拳の甲に、自分の拳の甲を押し当てる。
「徹、お前もな。絶対に生き抜くぞ!」
二人とも、顔を見合わせニッと笑う。その様子を秀也は満足げに見ていた。他のメンバーたちも笑みを漏らしているようだった。
「ルー子、由美、絶対後で会おうね。絶対だよ!」
「あ、私も!ルー子も由美も友達になれたのに、もうサヨナラなんて嫌だからね!」
絵理と聡奈が、瑠美と由美の手を握り、涙目で言っている。
「絵理だって!・・・頑張ってよ。絶対死なないでね。聡奈さんも、真奈美さんも」
「昨日一日だけなんて私も嫌よ。絶対・・・絶対に・・・」
瑠美と由美も同じように言う。そのとき、由美の目から大きな涙が一粒流れた。徹は初めて由美の本来の顔を見たような気がした。必死に感情を押し殺していた由美がやっと表面に出した感情。それは、泣き顔。・・・いい表情とはいえないが、それでもやはり感情を表に出した様子を見れた事が嬉しかった。それは、彼女が正常な精神を取り戻しつつある事の証拠でもあったから。
「・・・みんなの健闘を祈るわ。がんばりましょう」
真奈美が下を向いたまま、無感情に言った。徹は、真奈美が下を向いているのが下を向いているのがにわかに気になったが、すぐに理解した。皆に表情を見せたくないのだ。何だかんだ言っても、やはり彼女も『女』。外見は賢吾と変わらぬゴツイ服装・・・いや、武装だが、その辺の女と何ら変わりのない感情を持ち合わせているのだ。ただ、それを上手く表現できないだけ・・・。そう、たったのそれだけなのだ。にわかに訪れた静寂を破りたくなかったのか、言い出しにくそうに秀也が言った。
「・・・行くぞ。作戦開始だ」



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