「首輪の効果がなくなった・・・か」
放送が流れた後で小さく徹はつぶやいた。西山伸二の第一印象は最悪だった。どこか楽しんでいるような声色、内容だったのも理由の一つだが、『殺しにいく』というのが気にさわった。カタストロフィのメンバーの幾人かは会ったこともないのかもしれないが、それでもやはり、各々の修羅場をくぐってきた戦友である事に変わりはない・・・はずなのに。
「この・・・フン!ウルァ!」
窓の外をにらみつけるように見ていた徹の後ろで、哲志がなにやらもがいている。その様子がうっすらと窓ガラスに浮かんで見え、徹は血の気が引いていくのを感じた。
「な、何やってんだ哲志!?外したら危な・・・」
両手で首輪をつかみ、力いっぱい引っぱっている哲志。その首輪が「ガチン」という音と共に外れた。
「イタタタタ・・・」
首をさすりながら哲志がうめいている。当然と言えば当然・・・だが。
「さっきの放送聞いてたのかよ!?まだ爆発するかも知れねーのに」
半ば怒った様子で徹が怒鳴りつける。これもまた、当然と言えば当然。普通はやらない事だし、やろうともしないはずだ。確かにこの首輪は邪魔だし、気にかけると気にかけるほど何だか息苦しさを覚える。それでもやはり、外そうとしたら爆発する・・・それは教科書にも載っているほどに危険なことなのだ。それをやすやすと・・・。
「ん?何だ徹、アイツが言った事信じてんの?え〜絶対嘘だってぇ〜。ホラ、爆発しなかったしさぁ〜」
「そりゃ、結果だけ見ればそうだけど・・・」
言葉を続けようとするが、なかなか見つからない。こういう時ってどう言ったらいいんだ?
「ま、つけてたって大丈夫っぽいから徹はつけとけばぁ〜?爆発したら困るしな」
歯を出して哲志が笑う。ば、爆発したら困る!?おま・・・お前のさっきの行動は!?爆発しても困らないのかぁ!?
「徹君、哲志君、みんな準備できたって・・・行くよ」
由美が開きっぱなしになっていたドアから顔をひょこ、っと出し、これといった感情もないまま言った。どうしたんだろう?確か前は・・・学校では・・・もっと明るい、喜怒哀楽の激しい子だったはず。
「・・・何かあったのかな?」
「あ、やっぱ思った?俺も思ったんだよねぇ。ズボンよっかスカートの方が・・・」
「ハイハイ、そうっスね」
哲志が右手の人差し指と親指をアゴに当ててブツブツとつぶやいている。こういう時は適当に流すのが一番だ。徹がドアをくぐると、哲志も慌ててついてきた。廊下には由美、絵理、瑠美そして聡奈と真奈美が壁に寄りかかりながら立っていた。
「・・・さて、行こうか・・・ん?あれ?」
全員に声をかけようとしてふと気づく。あるべき物が・・・ない。
「あの・・・調理道具とかは?」
徹が首をかしげながら尋ねると、絵理がクスクスと笑いながら答えた。
「あぁ、あれはここにおいていく事にしたの。女子トイレに全部隠したわ」
「は、はぁ・・・ま、ま〜いっか。秀也達が待ってるし、早く行こうか」
徹が苦笑しながら催促すると、みんなが小さく頷いた。いつの間にか築いていた信頼関係。それはカタストロフィメンバーを含め、全員に言えるもので確かに存在する。こういう信頼関係はそんじゃそこらの友人などよりも正確で、とても強固なものであった。今、この場にいる者全員が一体何を考えているのか、それは徹には分からない。これからの行動について考えているやつもいれば、食べ物のことを考えているやつもいるかもしれない。しかし、そんな雑念のあふれるこの場は居心地がいい。確かな信頼、信念、心服。そう考えると、自然と顔がにやけてしまう。思わず、表に出してしまうほどに。
「・・・徹、何ニヤニヤしてんだ?気持ち悪ぃぞ」
階段を降りロビーに着くと、ロビー中央に立つ秀也が徹を見て顔を引きつらせた。
「・・・今さらかもしんないけどさ、秀也たちに会えてよかったな、って思ってさ」
ニッ、と笑ってみせる。秀也は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに顔をそらして照れくさそうにつぶやいた。
「・・・こっちだって。今まで目に映る奴皆分けわかんねー奴ばっかだったし。俺だってこの出会いを喜んでるさ」
「あ、私もぉ。ね!真奈美も、雪人も、賢吾も!みんな、嬉しいんだよぉ」
聡奈がニコニコしながら続ける。その横で瑠美がカバンをごそごそを探っていた。
「あったあった。ハイ、じゃ、皆で写真撮ろうよ。チェキだしさ。すぐに見れるからね」
銀色と橙色で色分けされた、コンパクトなカメラ。そのカメラを右手に持ち、瑠美が満面の笑みを浮かべる。
「そうだな。時間ねぇから1枚だけな!あとで焼きまわそうぜ」
秀也が口の端を釣り上げながら言う。徹は『後で焼きまわそうぜ』という言葉が、何だかうれしかった。
「あ、私は・・・いいよ。どっちにしても撮る人・・・いないしさ。私がやるよ」
由美が口元だけで笑みを浮かべながら瑠美からカメラを受け取る。
「そっか。悪ぃな。よっし、じゃ皆集まってくれぇ」
秀也が声を上げると、みんな思い思いの場所に移動する。徹は秀也の横に立ち、その右斜め前に絵理と瑠美が座り、その後に聡奈が立っている。聡奈と徹の間に真奈美が立ち、秀也の左隣りには雪人が立ち、少し後に賢吾が座っている。集まる時に誰かが倒したのであろうか、雪人の前には携帯用の食料をつめたバックが倒れていた。秀也が正面でカメラを構えている由美にウージーSMGを向けている。それが彼のポーズらしい。徹も真似してワルサーMPLを構える。徹と秀也はお互いに顔を見合わせると、二人とも小さく吹出した。
「じゃ、行くよ〜、ハイ、チーズ」
音もなくフラッシュが光る。少し間を置いてからチェキがフィルムを吐き出す音が聞こえてきた。ふと、徹は視線を左下に落とす。
「・・・おい、哲志、何してんだよ?」
そこでは哲志が食料を頬張っていた。実に幸せそうな表情だ。
「え?移動前の腹ごしらえ・・・」
手に持っているパンにかじりつきながら哲志が答える。
「・・・仕方ねーなぁ。それ一個だけだぞ。雪人、そのバッグ、持ってくれるか?」
左手で食料の入ったバッグを指差し、雪人に尋ねる。返事の代わりに笑みを浮かべると雪人はバッグをつかんだ。その動きが凍りつく。
「・・・空だ・・・」
バッグを逆さにして振って見せるが、そこからは何も出てこなかった。全員が呆然とその様子を眺める。秀也までもが唖然としていた。哲志はパンを口の中に放り込むと立ち上がり、全体を見回して言った。
「良し・・・行こう」




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