現在地はD−6、民家。ノートパソコンとデジカメの近くに放ってあった長い、コートのような服をまとう。真っ白な・・・服。背中には赤い字で『初代総統 西山伸二』と刺繍されていた。肩からウージーSMGをぶら下げると、ノートパソコンに接続していた携帯電話を拾い上げる。その液晶パネルには、分校で見たスクリーンと全く同じ地図が広がり、赤い点がいくつか発光していた。その発光した画面を左目だけで見つめる。右目は長く伸びた髪が覆い隠していた。
『ククク・・・まさか携帯電話を探知機代わりにするとはカタストロフィのやつらも思ってねぇだろうなぁ。さて・・・アホみてぇにいつまで爆発しねぇ首輪つけててくれるのか・・・問題はそこだけだな』
そう思いながら民家から出ると、そこには小島幸(女子2番)が立っていた。ただひたすらこちらを黙視している。状況の判断でもしているのだろう。
「・・・早速か・・・!?」
小島を睨みながら伸二が言った時だった。背中に右手を回したかと思うと、右手には大きいとも小さいともいえない斧が握られていた。幸が大きく右手を振り上げる。
「チィ」
軽く後ろに飛んでその一撃を回避する。幸はそのまま地面を斧でたたきつけた。
「・・・気に入らないのよ」
幸が小さくつぶやく。伸二は長い髪を逆立て、額よりも少し上の部分にバンダナを巻いていた。中央に大きな字で『DEATH』と書いてある。血の様な真っ赤な字で。右目は髪で覆ったまま、バンダナを頭の後方で結ぶ。
「そうやって、自分の力を過信するやつってさ。あんただって大した事ないんじゃ・・・ない・・・の・・・」
伸二を睨みながら幸が言う。その声は次第に小さくなっていった。伸二が睨み返していた。その目は明らかにさっきとは違っていた。獲物を狩ろうとする時の肉食獣の眼。実際に肉食獣が狩をする様子など見たことはない。眼など、もってのほかだ。しかし、この時確信していた。これは・・・狩る者の眼だと。ということは、自分は狩られる側?
「なに見て・・・く・・・」
斧を握る右手に力を入れ、襲いかかろうとする。しかしそれを体が拒んでいた。細胞の一つ一つが『逃げろ』と言っているような・・・そんな感覚。蛇に睨まれた蛙はこんな風に感じているのだろうか?とにかく腕の震えが止まらない。
「俺は・・・」
さっきとは声色も違うような気がする。
「行かなきゃいけねぇんだよ」
伸二が一歩幸に近づく。それに気圧され、幸も一歩後ずさった。蛇のように鋭く、研ぎ澄まされた左目の視線が幸の動きを封じる。
「テメェは邪魔だ。失せろ」
肩にぶら下げていたウージーSMGを右手に持ち、勢いよく引き金をひく。
バラララララ
幸目掛けて無数の銃弾がばらまかれる。その銃弾が幸の身体に吸い込まれるように被弾していった。あっけなかった。幸がぎこちない様子で後方に吹き飛び、地面に叩きつけられる。幾つもの穴が開いた伸二の目の前の肉片は、もう何も語らない。
「自分の力を過信したのは、テメェの方だったな。・・・クックック・・・」
獰猛に笑うと、近くに停めてあったバイクにまたがる。伸二愛用の大型バイク、CBR六〇〇XXだ。白いコートから携帯を取り出し、電源を入れる。幾つかの赤い点が発光している中の一つを見る。その点はE−8・・・ここからわりと近い。
「こいつは賢吾か・・・いや、違うな。あいつは団体戦向き・・・個人じゃ行動しねぇ。んじゃこいつは・・・誰だ?ただの生徒か・・・まぁ、いい。まだもう少し生かしといて
やるか。・・・ククク・・・」
携帯の電源を切ると、口元だけで小さく笑う。その笑みは、獲物を見つけた肉食獣の歓喜の笑みによく似ていた。携帯をポケットにしまい、CBR六00XXのキーをひねる。ウージーを肩にかけなおし、再び小さくつぶやいた。
「・・・さぁ、狩りの時間だ」



小島幸(女子2番)死亡【残り9人+6人】

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