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いつ何時もそうだった。周りの人間は非協力的で、何をするにも消極的。その結果、適当に選び、適当に動き、適当な結果が出る。自分がクラス委員長になり、生徒会長になったのは周りの推薦。成績が良い、人望が厚い、運動もできて温厚。それが買われたらしいが、所詮そんなものは肩書きに過ぎない。実際に今自分はそんな消極的なクズ共に制裁を下そうとしているのだから。そう、この林道義彦(男子19番)が自らの手で。
「アレが一人目の獲物か・・・」
現在地はF−9。森林の中に渡雅常(男子20番)が一人、座って木にもたれかかっていた。回りは薄暗い。もうこ1時間もすれば周りは完全な闇になるだろう。義彦は右手に持つCz75に一度だけ目配せした。セーフティはかかっていない。いつでも・・・撃てる。世界最高のコンバットオ−ト、Cz75。この銃があればこの世に必要のない消極的な人間を消し去る事が出来る。当然それは級友と言えど例外ではない。むしろ、級友であったから世に不必要であることは確信できるのだ。そして、自分とクラスメイトのやつらとは違う。自分は主体的だ。いわば、主人公。俺が負けるはずがない。
「俺の力を見せてやる・・・」
1メートル弱の高低差、直線距離は20メートルといったところか。身をかがめ、草むらから雅常を睨みつけていると、ふいにその雅常が立ち上がり、自分の方へと近づいてきた。
『気づかれた!?まさかそんな・・・』
ツバを飲み込みながら雅常を観察し続ける。心なしか、雅常は自分を見ているような気がした。二人の距離が10メートル切ったかというころ、雅常は背中から木に寄りかかり目をつぶり、やや斜め上に顔を上げて叫んだ。
「いつまでそうしてんだよ?俺は気づいてんだぜ?そこにいることになぁ」
決定的だった。自分の居場所はもとより、いつからいたのかさえも気づかれているのだろう。義彦はしぶしぶ立ち上がり、雅常を睨みつけながら叫んだ。
「攻撃してこなかったこと、後悔するぜ?」
口の端をつり上げながら銃を構える。すると突然、雅常が飛びのき腰を低くした。
「ほ、本当にいたぁぁ」
雅常が顔を歪めながら叫ぶ。
「どういう意味だ?」
強気だった表情は怪訝そうな顔に一変し、声にも怒りがこもっている。
「いや、誰かが隠れてこっちを見てるときのキメの練習をしてたら・・・」
雅常が左手で頭をかきながら答える。じゃあ何か?俺はハッタリにひっかかったということか?・・・冗談じゃない。
「・・・死ねよ」
怪訝そうな顔のままCz75の引き金を引く。パンという渇いた音とともに強力な一撃が繰り出される。その弾は頭をかいていた左手に直撃した。不自然な動きで雅常の左腕が後方へと移動する。ひじの辺りからは血が勢いよく吹出し、周りの制服を濡らしていく。
「てめぇ・・・許さねぇぞコラァ」
右手がすばやく動き、腰の辺りからコルトパイソンが姿をあらわす。その銃が正確に義彦を捉え、Cz75よりも高い炸裂音とともに銃弾が吐き出される。銃弾は義彦の右のわき腹をえぐった。激痛がはしり、小さくうめく。義彦はCz75を左手に持ち替え、続けざまに2発、雅常に撃ち込む。しかし銃弾は見当違いの方向へと消えていった。利き腕ではない左腕では無理があったのだ。
「THE END」
雅常が小さく言いながら一度だけ引き金をしぼる。しかし、義彦に致命的なダメージを与える事はできなかった。弾丸が標的をなくし、虚しく消えていく。
「運がいいなぁ。けど、この距離だったら外さない」
雅常がコルトパイソンの弾数に目配せしながら近づく。足取りは軽いが、左腕だけはだらしなく垂れ下がっていた。二人の距離が1メートルをきったとき、義彦は雅常を睨みつけながら叫んだ。
「くそ・・・くそっくそっ・・・なんで俺がお前らみたいな不必要な・・・わき役なんかに!俺は・・・俺は主人公のはずなのに!」
義彦は視線を地面に落としながら地面を殴りつけた。突然、左腕に激痛がはしった。うめきながら見ると、雅常が義彦の左腕に蹴りを入れていた。持っていたCz75が遠くへと消えていく。
「それはお前の思い違いだな。俺がわき役だったら・・・お前はさしずめ雑魚キャラ。いや、石ころか?はたまた・・・」
「黙れ・・・プレイヤーに話し掛けてもらわねば何もできないわき役が・・・」
「フン。だから言ってるだろう?お前はその『わき役』、村人Aにでも殺せる『雑魚キャラ』なんだよ。わかるだろう?この状況が」
「わ、わかった。じゃぁ、主人公のライバルあたりに・・・」
義彦が下を向き、中腰のまま声を絞り出すように言う。額を汗が濡らし、頬を伝って顎に集まり地面へと滴った。
「そういう問題じゃないんだよ。俺には肩書きはいらないのさ。俺には・・・な」
雅常の人差し指に力が入り、タァァンという快音とともに義彦を死に至らしめる一撃が放たれた。頭の頂きに風穴があき、顎から無様に地面へと叩きつけられる。動かなくなった義彦の上にコルトパイソンを投げ捨てる。・・・弾が切れたのだ。雅常は義彦に一度だけ視線を落とすと、Cz75を拾いに行く。左腕からはとめどない血が流れて地面を濡らしていた。



林道義彦(男子19番)死亡【残り10人+5人】

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