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 石井将(男子1番)は地図を両手で持ち、辺りを見回していた。見えるのは大小さまざまな木々や、これといって手入れのされていない、伸びっぱなしになった草むらだけ。将は、もう一度だけ頭の中を整理しようと、その場にしゃがみ、薄汚れたメガネを外す。そしてゆっくりと目を閉じる・・・。
昨日、俺は学校を出て・・・とにかく走ったんだ。誰かに会う、ってことも予想できたけど、その場に残る方がよっぽど危険だった。誰に会うのかも限られていたし・・・。俺はパソコン部だから・・・体力がなかったんだな。いきなり強烈な眠気に襲われて・・・そのまま寝たらしい。で、さっきの放送にたたき起こされた・・・と。ハイ、ここまで何の手がかりもなし。
「本当・・・ここ・・・どこだよ」
将は少し泣きたいような気分になった。しかし、泣いても仕方がない。泣くな、と自分に言い聞かせるように勢いよく立ち上がり、制服でメガネのレンズを拭う。メガネをかけると再び地図を開き、辺りを見回す。さっきと同じ風景。それはまぁ、当然だ。少し移動してみよう、かなり危険だけど移動しなきゃ何も分からない。そう思い、一旦地図をしまってデイバッグに入っていた武器・・・ハサミを取り出す。ハサミと言ってもただのハサミではない。高枝切りバサミ(折りたたみ可能)だ。ハイハイ、もちろんこれと言って得したことはありませんよ。むしろ普通のハサミより使いにくい。しかし、それが自分に支給された武器。こんなものでも武器なのだ。
「誰も・・・誰も居てくれるなよぉ・・・」
右手に持った高枝切りバサミで前方の草むらをかき分けるようにしながら進んで行く。しばしば、ずれ落ちてくるメガネを左手の中指で押し上げる。ふと、左手の腕時計が目に入った。長針がもうすぐ「12」を指そうとしている。・・・1時になる。一際大きな草むらを潜り抜けると、いきなり海に出た。
「海?ここは・・・」
海辺を注意深く見ていく。地図を見ながら今の地形に合った場所を探していく。大した特徴もない海辺。いや、待て、近くの角度の変わっている所・・・ざっと120度といった感じだ。何度も何度も地図を見たから地図は完ぺきに頭に叩き込んでいる。I−11か、D−2だな、俺が今居るところは。だけど、近くに港はない。ということは、I−11が現在地だ。
「やった・・・やった!!やっと現在地が分かったぞ〜!I−11だぁ〜!・・・ん?I−11・・・?」
地図を急いで取り出す。少し乱暴に取り出したため、小さく『ビリッ』という音がしたが、特に気にならなかった。地図のI−11を見ると、そこに雑な字で「1:00〜」とだけ書いてあった。自分で書いたものだ。それが何を意味しているのか、将にはすぐ分かった。・・・禁止エリアのサインである。急いで左腕の時計を見る。いや、見ようとした。見ようと顔を下に向けたとき、突然、頭を下から上に突き上げられたような衝撃が走った。ちょうど、アゴにアッパーを喰らった様な、そんな衝撃だ。少し遅れて、耳に『ボン』という音が聞こえ、同時に赤い液体が勢いよく吹き上がるのが目に入った。霧のようだった。ただ、普通の霧と違う所は・・・色。真紅の霧。将はそれがすぐに自分の血だということがわかった。そして分かった時、将はすでに息がなかった。左腕の時計は、何事もなかったかのように『1:01』を刻んでいた。


石井将(男子1番)死亡【残り19人+5人】

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