目覚めは・・・最悪だった。なぜ、自分がここにいるのかもわからなかった。茶色に染めた少し長めの髪も所々寝癖がついている。何より・・・今の自分の状況が最悪だった。自分がここにいるのか・・・『分からなかった』のではない。『信じたくなかった』。根津達志(男子13番)は一度空を見上げ、大きくタメ息をついた。木漏れ日が差し込んでいる。・・・・・・快晴だ。
「何もかもが・・・夢だったら良かったのに・・・」
泣きそうな声でつぶやく。F−7は比較的緩やかな斜面で、周りには木が生い茂っている。その中の一番太くて丈夫そうな木の根元で達志は眠っていた。誰かに襲われる心配があったが、気にしなかった。達志の武器は長さ5メートル弱もあるワイヤー・ソーだった。西武劇好きだった達志は投げ縄の練習をかなりつんでいた。そのおかげで今ではかなりの腕だ。その自信が、無防備な状態で眠るという絶対的な自信にもなっていた。
「あ・・・よく見りゃここって禁止エリアになるじゃん。さっさと移動しなきゃな」
達志はめんどくさそうにのろのろと立ち上がり、すぐ横に置いていた荷物を肩にかけた。
「さて・・・どこに行こうっかなぁ〜・・・んー・・・よし。一番近い町に行こう」
一番近い町・・・D−6だ。いつでも使えるように右手にワイヤー・ソーを輪のように束ねて持ち、全ての荷物を左肩にかける。・・・これで、いつでも戦える。
 歩き始めて5分ぐらい経っただろうか。チョロチョロという水の流れる音がしてきた。
どうやら近くに川があるらしい。今後のことも考えると、水を少し取って行った方がいいかも知れない、達志はそう思い、水の音、匂いのする方へと足早に歩き始めた。川はすぐ近くにあり、簡単に見つけることができた。(ぶっちゃけた話、川の近くの土が盛り上がっていたせいで川が見えなかっただけだった)上流だったためか、川はかなり細かった。川の幅はおよそ1メートル50センチといったところだろう。達志は水をくもうと、中身の半分ほどになったペットボトルを取り出す。フタをあけ、水に浸そうとしたとき、達志の動きが止まった。何かが・・・臭う。鉄のような・・・匂い。よく見ると水が微妙に赤く染まっている。達志は荷物を置き、ワイヤー・ソーをいつでも使えるようにしてさらに川の上流の方へと走った。反対側の草むらの中から不自然に伸びた手が見える。誰か人が倒れている。ついさっきまでヤる気だったのが、一気に冷めてしまったような気がした。軽く反対側へと飛び移り、ドクン、ドクンと高鳴る鼓動を抑えるように左手で胸を抑えながらゆっくりと覗きこんで見る・・・。そこには豊富な乳房があらわになった女の体が仰向けに横たわっていた。上半身の服だけがなく、下半身はスカートをはいたままだった。しかし、そんなモノも達志の目には映らなかった。ただ目に入ってきたのは、見事に断裂された首だった。首から根こそぎなくなっているせいで誰だか分からない。
「うぐ・・・」
たちこめる血の匂いと首を無くした血まみれの身体。人に吐き気を催すのには十分である。達志は川に嘔吐した。口の中に酸味が広がり、息が荒くなる。肩で息をしながらゆっくりと目を開けたとき、黒い髪を伸ばした女性の顔が目に入った。血の気を失い、青ざめた頬、左右、違う所を見ている生気を失った目。半開きになった口からは少量の血が流れている。関綾子(女子2番)だ。
「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
達志は叫んだ後で口を手で塞いだ。しまった・・・まだ綾子を殺した奴が近くにいるのかもしれない。そう思うととてつもない恐怖感が達志を襲った。一気に今きた道を走って戻る。そして荷物に左手を伸ばした時だった。
「たっちゃんか・・・悪いけど・・・俺のためだ。死んでくれ」
弓木光(男子17番)は感情のこもっていない声でそう言うとスラリと刀を抜いた。脇差と呼ばれる、一般的な刀だ。刀を右手に持ち、ゆっくりと達志に近づいてくる。よく見ると刀のつばに血がついている。
「ヒカル・・・おまえが・・・おまえが綾子さんを殺したのか?」
達志が震える声で聞く。
「・・・だったらなに?おまえには・・・関係ない!」
光が勢いよく走り出す。距離は8メートルといった所。達志に迷いはなかった。5メートル弱もあるワイヤー・ソーをとき放ち後方へと飛ばし、勢いをつけてから光めがけて極細のワイヤー・ソーを繰り出す!・・・しかし、ワイヤー・ソーが光を捕らえる事はおろか、前方にも飛ぶことはなかった。かわりに想像以上の負荷が右手にかかる。
「なっ・・・・・・・」
達志がうめきながら後をふりかえると、ワイヤー・ソーは後方にあった木に絡まっていた。
「しまっ・・・・・・」
前方に向き直ろうとした達志の首が地面に転がった・・・音もなく。音といえば、首から勢いよく吹き上げる多量の血液がたてる音だけだった。
「クスクス。場所が悪かったネ。ま、成仏してくれや」
光は軽く血振りした後、刀を鞘に収め、その場を去った。後に残ったのは、主を失った身体が2体と、鼻をつく強烈な血の匂いだけだった・・・・・・。


根津達志(男子13番)
関綾子(女子2番)
死亡【残り28人】

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