川藤信二(男子4番)はE−8の神社で眠っていた。6時を告げる放送で目を覚まし、しっかりと自分のマップに禁止エリアのマークをつけ終えたところだ。どうしてこんなことになったんだろう?そう思うとついつい溜息をついてしまう。しかし、不安、恐怖といったものはなかった。殺しあうつもりでいるやつらだけだとは限らない。それを証明してくれたのは他でもない、西島徹だ。
「・・・そういやアイツ・・・どうしたのかな」
つぶやきながら鳥居をくぐって神社の外に出る。この神社は山を削ったような場所に位置し、周りは木で囲まれている。安全と言えば・・・まぁ〜、安全な場所だ。外をきょろきょろと見たあと、鳥居の片方の柱の前立ち、少し股を開け、ズボンのジッパーを下げると、じょぼじょぼと勢いよく小便出てが柱を濡らしていく。え?バチあたり?そんなの、このゲームの対象になった時から神様仏様の存在など知ったことではない。・・・・・・ガサッ!
信二はビクッと身を震わす。すぐ近くの草むらが音をたてて揺れた。
『・・・誰だ?何もこんなときに来なくても・・・女だったら嫌だな。』
外でようをたしたことを少し後悔しながら動いた草むらの周辺を見つめる。・・・しかし、相手に動きはない。そうこうしているうちに、信二は小便を終え、戦闘態勢をとった。背中からククリナイフと呼ばれる歪に曲がったナイフを抜きとる。一歩・・二歩・・・と草むらへゆっくり近づいて行く。あと2メートル程度になったとき、信二の後・・・かなり遠い所だったが、またそこがガサッと音を立てた。・・・え?という感じで信二は振り向いた。草むらが余韻を残しながらわずかに揺れている。変だな・・・と思って考え込んだとき・・・信二の頭部に鈍い痛みが走った。顔から地面に叩きつけられる。信二がうめきながら仰向けになると、そこには矢口恵(女子12番)が立っていた。右手にはフライパンが握られている。そのほぼ中心がわずかにへこんでいた。
「いってぇ・・・いってぇなぁ・・・」
頭をさすりながら信二がゆっくりと立ち上がる・・・信二は頭をさすっているつもりだった。しかし、手には何の感触も無い。・・・何の感触も無いのだ。信二の顔が青ざめる。
なぜだ?何でコイツは俺を襲ってきたんだ?俺は・・・何も・・・
「気をつけ・・・・とお・・・」
とっさに『気をつけろ、徹』と言いたかったが、ほとんど言葉にならなかった。ゆっくりと目の前が暗くなっていく。あぁ・・・俺は・・・死ぬの・・・か・・・ハハ・・・思えばあっけない人生だったな・・・もうちょっと早く徹と友達に・・・。
ここで、信二の思考は完全に停止した。
「ごめん・・・ごめんね・・・信二くん・・・けど・・・コレは戦い・・・なんだよ・・・」
恵は冷ややかに横たわっている信二を見下ろしながら言い放った。自分の接近を信二に気づかれた時はどうしようかと思ったが、信二に見えないように遠くに投げて信二の注意をそらして一気に叩く。この作戦が思いのほか上手くいった。他人を殺して、自分が生き残る・・・それがこのゲームのルール。恵はゲームクリアに一歩近づいたはずだった。しかし、フライパンを握った腕の震えが止まらない。
『初めて人を殺したんだ・・・私が・・・初めて・・・』
頭の中では分かっている。初めての人殺し・・・そのショックが大きすぎたことぐらいは。
どうしようもない腕の震えを左手で押さえつけながらしゃがみこむ。そしてゆっくりとフライパンを地面に置き、信二の手からナイフを奪い取る。・・・これが次の私の武器・・・左手でグリップを握りしめ、鈍く光る刃を見つめる。いつの間にか右手の震えは止まっていた。恵は自分の荷物を肩にかけ、その場をさった。・・・その後、彼女は気づくことはなかった。腕の震えはわずかに残っていた良心であることに。そして、腕の震えが止まったとき、良心は音もなく消え去ったことに・・・。


川藤信二(男子4番)死亡【残り28人】

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