6
『おはようございまぁ〜す!みんな、6時ですよぉ〜起きてくださぁ〜い』
徹はそののんびりとした声に起こされた。暖かな日差しが窓から差し込んでいる。ここが戦場であることを忘れてしまいそうなくらい、和やかな朝日だ。
『いきなりですがぁ〜、禁止エリア言いますねぇ〜?準備はいいですかぁ〜?えぇ〜っと・・・7:00からI−8、I−8。9:00からC−4、C−4。11時から、F−7、F−7。以上です。みなさん、気をつけて下さいねぇ〜。それじゃ、今度は今までに死んだ人の名前を言いまぁ〜す。死んだ順番どおりでぇ〜す。男子2番大島宏紀くん、男子5番工藤成寛くん、女子7番野口里美さん、男子16番松本敦くん、女子1番赤石優さん、男子8番辻勇也くん。ん〜・・・・まぁ〜そこそこいい感じですよぉ〜。それじゃ、引き続きがんばってくださぁ〜い』
しっかりとメモを取りながら徹はふと視線を自分の横に落とした。そこには親友の哲志が気持ちよさそうに眠っている。起きる気配は全くない。
「ったく・・・」
コイツには緊張感っていうのはないのだろうか?まぁ、そのおかげである程度落ち着いていられるのだから、別に悪いというわけではなかった。
「そうだ・・・絵理さん・・・」
徹は今まで寝ていた部屋を出て、階段を降りた。一段一段降りながら昨日の夜のことを思い出す。
「とりあえず・・・ソレ・・・下げて・・・」
見角絵理(女子10番)が、沈黙を破る第一声を発した。続いて、徹が何か言おうとした時、グゥゥゥ・・・という音が後から聞こえた。徹が後を振り返るとそこには頭をポリポリとかきながら恥ずかしそうに笑っている哲志がいた。徹がハァ?、という顔を哲志にすると、絵理がおかしそうにクスクスと笑っていた。
「ゴハン・・・一緒に食べない?おなか空いてるんでしょ?」
絵理の提案はすんなりと通った。徹は断固として食べようとしなかったが、同じフライパンで同じように焼いていた餃子を絵理と哲志がパクパク食べているので、しぶしぶ口にしてみた。・・・美味しい。お皿の上にはコレを一人で食べるつもりだったのだろうか?と思わせるほどの餃子が乗っている。4人で食べてちょうどいいくらいの量だ。大きさこそ少し小さめとはいえ、少なく見積もっても50個はある。その中の一つを頬張りながら徹が聞いた。
「ところで・・・絵理さんの武器はなんだったの?」
「毒薬よ」
即答した絵理の答えを聞き、飲み込みかけていた餃子を吹出しかけた。
「ゲホゲホ・・・ま・・・マジ?」
「ん〜ん。冗ぉ〜談」
きっつい冗談だな・・・とむせながら思った。
「私の武器も銃だったわ・・・ホラ、コレ」
絵理が隣りのイスの上に置いていた(らしい)銃を手に取り、徹に手渡した。哲志はもくもくと食べている。
「・・・説明書もある?」
「ウン。あるよぉ〜」
絵理は微笑みながら同じようにイスの上にあったらしい銃の説明書を拾い上げ、徹に手渡す。銃の名前は『ワルサーMPL』というらしい。銃口の近くから引き金の方にかけて幾つもの穴があいているのが特徴。その穴の途切れ目と引き金の間には長いマガジンがついている。・・・サブマシンガンだ。マガジンを抜くと弾がぎっしりとつまっている。
「それ・・・徹君が持っててよ。私は使わないと思うし」
「・・・そうか。・・・ありがとう」
徹は小さく微笑むと、自分の太ももの上に銃を置いた。今自分は銃を2つ持っている。一人で二丁も持っていても同時には使えない。それで今まで持っていたワルサーP38は哲志に渡す事にした。ポケットからP38を抜く。
「ホラ、哲志。コレはお前が使・・・って、何食ってんだよ!」
お皿の上に少なくとも50個はあったはずの餃子がいつの間にか5、6個になっている。哲志は口いっぱいに食べ物を含み、モゴモゴと口を動かしている。二人はそんな様子の哲志を見て吹出した。
「アハハハ。哲史君ってそんなキャラだったっけ?」
「おまえなぁ・・・」
徹も苦笑する。ひとしきり笑ったあと、絵理が急に口を開いた。
「そういえば・・・二人って仲良いよね・・・」
「あぁ。小学校からずっと一緒だったからな」
徹はうれしかった。おもわず下を向いて照れ笑いする。
「そっか・・・私はこっちの学校に来てから友達とか・・・」
絵理が下を向く。とても悲しそうだ。大きな二重の目に涙が浮かんでいるようにも見える。
徹たちのクラスは男女の仲はあまりよくない。そんなこともあってか、女子が男子の友達を持つ事はほとんどなかった。同じ鹿児島出身者、といっても、鹿児島は広い。実際、小学校から同じ学校だという人はあまりいなかった。
「じゃ、これから俺たちが友達だ。・・だろ?徹」
「もちろん。ヨロシクな!」
徹は内心ちょっと驚きながら同意した。別に哲志がこういったことに驚いたわけではない。自分が自分のクラスの人についてあまり・・・というか、全然知らなかったことに驚いた。
「ホント!?やったぁ〜!ヨロシクねぇ〜!」
絵理は両手を上げて喜んでいる。そんな様子を見て、哲志と徹は顔を見合わせ、満足そうに笑った。こんなとこでも友達ができるんだな、この場にいる3人、全員が同じ考えだった。さて・・・食事に戻ろう、と思って皿に目を落とした時、絵理と徹は初めて皿が空になっているのに気がついた。哲志は何食わぬ顔で一度だけ『ふぅ』と息をもらした。
それから三人は自分の出身校のこと、小学校の時の思い出や今の生活などについて話した。楽しかった。今が殺し合いをしている最中だということをすっかり忘れてしまうほどに。そして、もう遅いから寝ようということになった。一階にはベッドが一つ、二階には二つあった。よって、絵理が一階に寝ることになった。一階に一人で寝るのは危険だ!俺が一緒に寝てやる、と哲志が言い張っていたが、それは絵理に丁重に断られた。哲志と徹は絵理に「おやすみ」とだけ言って二回に上がり思い思いのベッドに入った。
「なぁ・・・徹、絵理さんのこと・・・どう思う?」
「ハァ?」
いきなりの質問に徹は顔をしかめた・・・それがすぐにニヤニヤとした笑いにかわる。
「ん?なんだ?絵理さんのことが好きになったのか?」
「いや、そうじゃなくって・・・」
いつもと違う哲志の様子。これは恋をしたに違いないと、徹は思った。いや、思っていた。
「一人なのになんであんなに餃子作ってたんだろうな・・・」
「さぁ〜・・・おなか空いてたんじゃねぇの?明日の朝の分も作ってたとか・・・」
「じゃあさ、なんで銃使わないとかって言ってたんだろうな」
「そんなこと言われても・・・!?」
徹が大きく目を見開く。
「・・・おかしいだろ?弾は満タンまで入ってたんだぜ?」
確かにそうだ。銃を使わないつもりなのなら弾を込めておく必要はない。
「ま、敵意はないみたいだからいっかぁ〜」
「・・・そ、そうだな」
緊張した雰囲気が続く中、哲志がいつもの調子に戻る。それに合わせて徹は同意した。こういうことは考えてもあまり意味のないことだ。そもそも敵意があるのなら料理など作らないはずだ。自分の居場所を他人に知らせているようなものだ。彼女はあまり、深く考えずに行動している・・・ということで、徹は一人納得した。
「あ、そうだ。哲志、ホラ」
食事の時に渡し損ねたP38を手渡す。電気はつけていないが、月明かりだけで十分見えた。哲志はそれをすんなりと受け取った。
「じゃ・・・おやすみ」
「おぅ。おやすみぃ〜」
記憶があるのはそこまでだ。その後すぐに眠りについたらしい。そんなことを考えていると、絵理の寝ている部屋に着いた。コンコンと軽くノックする。
「う〜・・・誰ぇ〜?」
うめくような絵理の声が聞こえる。どうやら今起きたらしい。カチャという金属音と共にドアが開いた。そこにはきれいなストレートの髪がぼさぼさになった絵理がワイシャツをだらしなく着て立っていた。シャツは彼女のものではない。サイズが大きすぎる。どうやら、家の物を勝手に着ているようだ。下は・・・下着一枚らしい。白くて細い足があらわになっている。徹は一人赤面しながら苦々しい表情を浮かべた。
「ん〜・・・徹君〜・・・」
かすれるような声。目をこすりながら、何?、という感じでこっちを見ている。
「あのさ・・・6時の放送今終わったんだけど・・・」
恐る恐る徹が言った。それを聞いて、目をこする動作が止まり、大きく目が見開かれる。
「あぁぁぁ!・・・そうだ・・・BR法の最中だったぁぁぁぁ!!」
悲鳴にも似た声をあげた。
そんな悲鳴はどこ吹く風。哲志はそのころ・・・まだ爆睡していた。
しばらくして・・・3人は軽い食事をとって滞在していた家をあとにした。
どこへ行くというあてもなかったから、医療施設が近くにあるらしい、H−9の民家へ移動しようということになった。そして、徹、哲志、絵理の三人はゆっくりと歩きだした。
【残り29人】
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