大島宏紀(男子2番)は、南へ向かって走っていた。本人は、どこへ向かって走ってい
るかなど考えていなかったから、「向かって」走っているわけではなかったが。
とにかく、あの校舎から離れたかった。自分を殺しに来るのかもしれない、クラスメイト
たちがまだ残っている、あの魔の校舎から。少しでも遠くへ行くためにとにかく走った。
そしていつの間にか、海辺に出ていた。真っ黒い岩がいくつも突き出している、磯である。
その岩の中でも、一際大きな岩のそばへと見を隠し、荒く息をした。サッカー部とはいえ、
ここまで全力で走ってきたのだ。さすがに辛い。
「そ・・そうだ。・・・武器・・・武器は何だ!?」
ペンライトで照らしながらデイバッグの中をかき回す。すると、そこから一つのお面が出
てきた。もともとは赤かったのだろう。ところどころ赤いペンキらしきものが残っているが大部分は剥げ落ちて灰色になっている。
小さな角、少ししかめたような目。ニィっと笑
ったような口の形に、不気味な鋭い歯がびっしりとはえている。どうやらハンニャの面らしい。
「な・・・なんだよコレ!!?こんなんじゃ全然戦えねぇよ!!」
知らず知らずのうちに声が大きくなる。
「お?宏紀じゃん?」
突然声をかけられ、宏紀は驚きのあまり、意識が飛びそうになる。
「し・・・志郎か?一体どこに・・・」
クジによって始めに校舎を出ることになった東山志郎(男子10番)が岩の上に立っていた。右手にはキングコブラという名の銃が握られていた。(リボルバーなので弾は6発し
か入らないが、威力は相当なものである。)宏紀はまだ混乱しているのか、周りをキョロ
キョロと見回していた。 「上だよ」
「え・・・」
宏紀が上を向いた瞬間だった。志郎の手に握られた銃の引き金がしぼられ、タァーンとい
う耳を打つような大音量とともに、宏紀の顔の右斜め上に銃弾が直撃した。
至近距離で撃たれたことと、銃の威力がすさまじかったために、頭の右側は吹き飛び、辺
りに脳みそが飛び散った。今まで宏紀と呼ばれていた肉塊がガクリとひざをつく。
「フン」
志郎は軽く鼻を鳴らし岩から飛び降り、宏紀の左手に握られていた面を取り上げた。
「ハンニャの面・・・か。」
何気なくつけてみる。
「こんなんじゃ銃弾も防げやしねぇ・・・視界も悪いし・・・いらねぇな」
そう言い捨てると面を外そうとした・・・が、いくらひっぱっても外れない。
「な・・・どうなって・・・う・・あ・・・あぅ!?」
激しい衝動に駆られながら、志郎を激しい頭痛が襲った。狂ったように頭を大きく上下に
振る。その動きがピタっと止まった。ゆっくりと面をつけた志郎が顔をあげる。面からく
りぬかれた目の部分から志郎の目が覗いている。月明かりに照らされる志郎の目は、血のように赤く染まっていた。
「くく・・・・くくく・・・・くくくくくく・・・」
含み笑いのような声。不気味に開かれた面の口からよだれが落ちる。
ふと、その目が今殺したばかりの宏紀と呼ばれていた肉塊を見つけ、ゆっくりと近づく。
頭のところまで来ると身をかがめ、クチャクチャと音を立てて血をすすり、肉を食べ始めた。そこにはもう、志郎という名の人間は存在していなかった。
いたのは、かつて志郎と呼ばれていた一匹の化け物だけであった。


大島宏紀(男子2番)死亡【残り34人】

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