第2部







 この島は一体どの辺にあるんだろう?そんなことを考えながら徹は校舎の入り口から少し
離れた木の陰に隠れていた。もうすぐ出てくるであろう、親友の哲志を待っているのだ。
時間も結構あったし、哲史は徹の後にいたので、
「入り口の近くで待ってる。」
とだけ、短く伝えたのだ。哲史は別に驚いていなかった。おそらく、哲史も徹と同じ
ことを考えていたのだろう。そう思うと、寒さでこわばった顔が笑みへと変わった。
「ったく・・・ホンット寒いな・・・」
季節はまだ10月末。いくら夜とはいえ、寒すぎる。おそらく、東北地方あたりにある島
なのだろう。徹は寒さに耐えかねて支給されたデイバッグを開いてみた。
「ちっ。あいつらももうちょっと気ぃつかって、ホットコーヒーにでもしてくれりゃいい
のに・・」
冷え切った水を手にとって、徹は悪態をついた。あとは、まずそうなパンと地図、コンパ
スにペンライト・・・そして、武器が入っていた。
「ん・・・?なんじゃこりゃ?」
徹のデイバッグに入っていた武器は紛れもなく銃だったが、見たことのない銃だった。付
属されていた説明書を開いてみると、「ワルサーP38」と書いてある。ヨーロッパ製の
銃で着装数は少なめであった。なんとなく、弾を込めてみる。その時だった。
「ハン!先客がいやがるとはな・・・」
弾を込める手を止め、徹は驚いて顔を上げた。そこに立っていたのは川藤信二(男子4番)
であった。校舎の近くにある街灯のほのかな光だけが徹たちのいる所に差し込んでいるの
だが、暗闇にずっといたことで、二人とも目が慣れていた。そして、信二の右手には変に
曲がったナイフが握られていた。自然と銃を握る手に力が入る。
「ここで待ち伏せするのが一番楽だもんなぁ。みんな考える事は同じか・・・」
徹はその言葉を聞いて凍りついた。確かに、ルールは全員しっていて、自分が生きるため
にはクラスメイトを殺さねばならない。それは徹にも分かっている。しかし、ショックは
隠しきれないほどに大きかった。
「けっ。図星って顔してんなぁ。お?いいもん持ってんじゃん。・・・よこせよ」
徹の銃を見た信二が口を端を釣り上げながら言った。全然図星じゃないっての・・・と、
言いたかったが、そんなことが言える状況じゃなかった。硬直状態に
あった徹もさすがにもう動ける状態になっている。こいつは・・・信二はヤる気だ・・・どうする?
「よこせって・・・言ってんだよ!!!」
3メートルほどあった距離が信二の踏み込みで一気に1メートルほどにまで縮まった。
手を伸ばせばギリギリで届く距離だ。
『いける!!』
信二は心の中で叫んだ。変に曲がったナイフが徹の顔をめがけて切りつけられる。
しかし、徹は軽く後へ飛んだだけでその一撃を回避した。信二が踏み込みで詰めた距離は
約2メートル。そして、手を伸ばしてやっと3メートルだ。徹が動かないとすれば、確実に
射程距離内だ。動かなければ・・・である。
「なにぃ!?」
仕留めた!と思った相手が余裕の表情で攻撃をかわした。一撃で仕留めるつもりで攻撃し
たために、踏み込みのときの反動が強すぎて、足元がふらつく。
「・・・仕掛けてきたのは・・・おまえだぜ?」
そう言い放つと、軽く信二の脚を払った。信二が無様に尻餅をつく。信二の強気だった表
情が変にこわばる。そんな信二を冷ややかに見下ろしながら徹が口を開いた。
「あのな、信二、俺はそんなにヤる気じゃないんだ。もしかしたら、この島から逃げれるかも
しれないだろう?」
「・・・島から逃げ出せた事例なんか、教科書には載ってなかったじゃねぇか。」
「当たり前だろ!教科書にそんなこと書いてたら選ばれた奴らはみんな必死で脱出しよう
とするだろう!?そしたら政府のやつらは困るじゃねぇか」
「あ、あぁ、そうか・・・」
『コイツ阿呆だ』心の中で徹は叫んだ。その時、徹の背後から能天気な声が聞こえた。
「え?なになに?何の話?」
「おせぇぞ哲志!」
「え?そうかぁ?じゃ、早くどっか行こうぜ?」
悪びれた様子もなく、哲志が微笑む。
「・・・じゃあな、信二。また・・・生きて会おうぜ!」
尻餅をついたままポカンと口をあけ、二人が去るのを信二は黙って見ていた。
「フン・・・みんな・・ヤる気に決まってんだろ」
信二は立ち上がり、制服についた草をはたき落とす。
「でも・・・まぁ・・・少しぐらい・・・信じてみるか」
そうつぶやくと、信二も自分の荷物を持ち、その場を立ち去った。

                          
【残り35人】

戻る