第1部







『ここは・・・どこだろう・・・』
何もない、暗闇の中。上も下も真っ暗で何も見えない。西島徹(男子11番)は苦笑した。
なぜ苦笑したのかは自分でも分からない。ふと、前方に人の気配を感じた。5センチも先
が見えないような暗闇の中で、なぜかはっきりと人の気配がする。
「・・・君は・・・誰?」
徹は声に出して聞いてみた。その声が、透き通るように響き渡る。前方に感じていた気配
は徹が発した声が消えると同時に消えていた。
「気の・・・せいか。」
そう言って小さく溜息をもらしたとき、不意に後から聞きなれた声が聞こえた。
「俺は・・・おまえだ。」
徹はわけがわからず、困ったように顔をしかめた。もっとも、顔はしかめたつもりだが、
見えない相手の突然の言葉によって、恐怖心の方が強かったが。
「おまえは、これから起こることを正面から受け止めなければならない。絶対に目を背け
ちゃダメだ。・・・絶対・・・な。」
彼(?)が言った。
「なんのことだよ!?これから一体何が・・・」
徹が突然叫んだが、その声はただ、虚しく響くだけだった・・・・・・
『なあ、徹!おいってばぁ!』
突然、徹の視界に入ってきたのは親友の西山哲志(男子12番)だった。
「どうしたんだ?随分うなされてたけど・・・悪いもんでも食ったか?」
能天気な哲志の声。なぜうなされるのと悪いものを食べたことが関係してるのか分からな
かったが、哲志の声を聞いただけで安堵した。アレは・・・夢だったのか。
どんな夢だったのか、ハッキリとは思い出せない。良い夢でなかったのは確かだが。
「いや、別になんでもないんだけどさ。それよっか哲志、今・・・何時だ?」
「今?えぇ〜っと・・・9時半になろうとしてるとこ。で、今は東京だよぉ」
真新しい時計を見ながら哲志が答えた。徹たちは待ちに待った修学旅行に来ていた。
鹿児島市立中学校3年C組の修学旅行初日は東京に向かい、翌日にはディズニーランドに
行く予定だ。徹はあまりディズニーランドへ行くことに賛成していなかったのだが、実際
ここまで来てみると、とても楽しみだった。明日の事を色々想像しながら、回りを見回し
てみた。きっとみんな、明日の事で話が盛り上がってるに違いないと思ったからだ。
しかし、バスの中は修学旅行初日にしては静かだった。よく見ると、みんな寝静まってい
る。隣りを見てみると、ついさっきまで話していた哲志も小さく寝息をたてている。
「みんな疲れてるんだな」
残念そうにポツリとつぶやく。まぁ、無理もない。ずっと移動続きで、何度もバスを乗り
換えたのだ。(徹は、一台のバスでずっと行けばいいじゃねぇか、と始めの乗り換えのと
きに思ったが、バスガイドがきれいだったので、別に良いか、と思っていた)そして、自
分もまぶたが重い事に気づき、自分も眠ることにした。
このとき徹は、これから自分にふりかかる偶然でありながら、運命的である災いのことな
ど、知るはずもなかった・・・・・・・。
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